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大林組のBIM・ロボット施工が業界を動かす理由 — エスコンフィールドHOKKAIDOで実証された戦略

スーパーゼネコン大林組のBIM・自動化施工を公開情報から読み解きます。4D施工管理支援システム、耐火被覆ロボ、エスコンフィールドHOKKAIDOでの実装、Robotics Constructionの全体像を整理します。

#大林組 #ゼネコンDX #エスコンフィールド

スーパーゼネコン5社のなかで「建築のロボット施工」と「BIMワンモデル」を語るとき、必ず名前が挙がるのがもう一社、大林組です。鹿島が土木の自動化(A4CSEL)を旗印にする一方、大林組は建築現場における自動化と、設計から施工・維持管理まで一気通貫で活用するBIM運用、その両輪に長く投資してきました。象徴的な事例が、北海道北広島市のエスコンフィールド HOKKAIDOです。本稿では、大林組が公開しているプレスリリース・技術ページ・第三者取材記事をもとに、同社のDX戦略を「DX本部」「4D施工管理」「ロボティクス」「BIM生産基盤」「業界への示唆」の各軸から整理します。

大林組の業界ポジション — なぜ大林のDXに注目すべきか

大林組は1970年代後期から建設分野におけるコンピュータ関連技術の有用性に着目し、いち早くデジタル化を進めてきたゼネコンです。2010年にはBIMを業務に本格導入し、2022年2月には全社のデジタル変革をけん引する組織として「DX本部」を新設しました(大林組 DX本部の新設について)。日経クロステックの取材によれば、200人規模でグループ全体のデジタル化を加速する体制が組まれています(大林組が「DX本部」新設、200人体制でグループ内のデジタル化加速へ)。

DX本部の主要施策は、BIMによる生産基盤のさらなる強化、デジタル技術を活用したBPR(業務プロセス改革)、デジタル人材育成、ICT投資の最適化の4点です。同社は中期経営計画でBIM生産基盤への「完全移行」を掲げ、2024年度末を目標に業務全体をBIM中心の枠組みへ転換する方針を打ち出しています(BIM基盤への完全移行掲げる大林組、「デジタル教育課」が促すDXの自分事化)。

ここで重要なのは、大林組がBIMを「設計の3Dツール」ではなく「建設事業の情報基盤の中核をなす根源的な情報データベース」と位置付けている点です(大林組のDX戦略|第五回「大林組が考えるBIM、そして建設DXの要点」)。この発想が、後述のワンモデル運用や4D施工管理、ロボティクス施工と一体で動くDX戦略の土台になっています。

主要取組1:4D施工管理支援システムとエスコンフィールドHOKKAIDO

大林組のDXを語るうえで最も象徴的な事例が、2022年2月に発表された「4D施工管理支援システム」と、その大規模実装舞台となったエスコンフィールド HOKKAIDOです。

システムの中身

大林組がリリースした4D施工管理支援システムの開発発表によれば、本システムはBIM 3Dモデルにドローン撮影による点群データを重ね合わせて現場の地形を再現し、そのデジタル空間を基盤としてIoT化された重機の位置・稼働状況、監視カメラ映像、作業員情報をリアルタイムに連携、遠隔から一元的に現場を把握できる仕組みです。建設ITブログの解説では、本システムが現場をデジタルツインとして再構築する点が強調されています(大林組が4D施工管理システムを開発! BIMと点群で現場の今をデジタルツイン化)。

エスコンフィールドでの実証

そして本システムが大規模に活用されたのが、北海道日本ハムファイターズの新本拠地として2023年シーズンから供用されたエスコンフィールド HOKKAIDOです。同球場は天然芝フィールドに対応した日本初の開閉式屋根を備え、収容人数は約3万5000人。約1万トンの屋根を支持する24台の台車が約250mのレールに沿って走行し、片道約25分で開閉する大規模可動構造物です(巨大開閉式屋根の球場「エスコンフィールド HOKKAIDO」をつくる)。

日経クロステックの取材記事大林組が開閉式屋根の新球場工事で驚きの4D施工管理、ドローン撮影の点群も併用では、クレーンに無線情報収集システムを設置してGNSS位置・姿勢データ、ブームやアームの角度、鉄骨揚重の重量・揚重位置などを集約し、BIMモデル上の設計重量・位置と突き合わせて進捗を自動算出した様子が紹介されています。北海道建設新聞も施工管理変革を実現 大林組が日ハム新球場新築で実証実験で、関係者間の合意形成スピードが大きく向上したと伝えています。

ワンモデルBIMによる前さばき

特筆すべきは、エスコンフィールドが「BIM竣工」と呼ばれる手法で進められたことです。大林組と米国HKS設計事務所はコンペ段階から一貫してBIMを使い、着工前にそのまま施工へ移れる完成度のモデルを作り上げた、と報じられています(前例なき球場をワンモデルで実現)。BIMが「設計用」と「施工用」で分断されがちな日本の現場で、ワンモデルを一貫利用した事例として高く評価されています(大林組が取り組むワンモデルBIMとその事例)。

主要取組2:耐火被覆吹付けロボットと建築現場の自動化

建築現場の自動化で、大林組がリードするのが鉄骨耐火被覆の吹付け作業です。粉じんが舞う劣悪環境かつ熟練を要する代表的な「苦渋作業」で、長らくロボット化の難所とされてきました。

大林組は2019年に初号機を開発し、中高層オフィスビルを中心に複数現場で運用してきましたが、2024年1月29日には改良型となる2号機をリリースしました(新型「耐火被覆吹付けロボット」を開発、建設現場へ適用拡大)。新型機は横幅500mm、重量500kgへの小型・軽量化を実現したうえで、測量で使われる後方交会法を採用して自律移動の精度を高め、停止位置の誤差を5mm以内に抑え込んだと報告されています(進化した大林組の耐火被覆吹き付けロボ、「後方交会法」で停止位置誤差5mm以内)。BUILT・ITmediaの記事大林組が「耐火被覆吹付けロボット」の改良版を開発 自立走行機能も強化では、2023年11月から都内現場での適用が始まったことも報じられています。

2024年4月以降は、吹付け対象の鉄骨梁をセンシングしてロボットと梁の相対誤差を把握する機能も追加実装される見通しで、自律性のさらなる強化が予告されています。耐火被覆は鹿島・清水・竹中も研究を進めている領域ですが、量産機としての現場投入で先行している点が大林組の強みです。

主要取組3:Robotics Constructionの全体像

これらの個別技術は、大林組が掲げる「Robotics Construction(ロボティクスコンストラクション)」という構想の中で体系づけられています(ロボティクスコンストラクション|技術・ソリューション)。

公式説明によれば、Robotics Constructionは「作業の機械化」「機械操作の省人化(遠隔・自動・自律)」「建設プロセスのデジタル化」の3要素で構成されます。具体的には次のような技術群が含まれます。

これらの技術検証や量産化を担う拠点として、埼玉県の東日本ロボティクスセンターと大阪府の西日本ロボティクスセンターが整備されており、組織として腰を据えてロボ施工に投資している姿勢が伺えます。

建築BIM・施工BIM:SBSとワンモデル一貫利用

ロボティクスや4D施工管理が機能する前提として、大林組のBIMは「ワンモデル一貫利用」という独特の運用ポリシーで動いています。意匠・構造・設備の各分野の設計情報を一つのBIMモデルへ統合し、設計から施工、維持管理まで同じモデルを使い回すという思想です(BIM|技術・ソリューション)。

このワンモデル運用を支える社内ルールが「Smart BIM Standard(SBS)」です。大林組は2023年1月、社内ルールであるSBSをWeb上で一般公開しました(大林組のBIMモデリングルール「Smart BIM Standard®」を一般公開 / Smart BIM Standard 公式サイト)。社内標準を社外へ公開するのは異例の判断で、日経アーキテクチュアは「BIM標準化に一石を投じた」と報じています(大林組の社内ルール公開に騒然、BIMの標準化は進むか)。

さらに2025年1月には、設備設計分野のSBS(設備SBS)も公開され、サイト開設からのダウンロード数が累計3万件を超えたことが明らかになっています(大林組のBIMモデリングルール「Smart BIM Standard®」の設備コンテンツを一般公開)。これは協力会社・サブコンにとって、大林組現場で求められるモデリング基準が事前に把握できるという、極めて実務的な意味を持ちます。

加えて、ビジュアル工程管理システム(BIMモデル+進捗の視覚化)も2021年から運用が始まっており、4D施工管理支援システムと組み合わせて使われています(大林組のBIMデータを連携されたビジュアル工程管理システム稼働)。BUILT・ITmediaの大林組が見据えるデジタル戦略の現在と未来 BIM生産基盤による”生産DX”でも、BIM生産基盤が「生産DXの中核」と位置付けられていることが解説されています。

競合比較 — 鹿島・清水・竹中・大成との立ち位置

スーパーゼネコン5社はそれぞれ違う角度からDXに取り組んでいます。大林組の位置づけを公開情報ベースで比較すると、次のような姿が浮かびます。

そのなかで大林組は、「ワンモデル一貫利用+SBS公開+4D施工管理+耐火被覆ロボ+Robotics Construction」というラインアップで、建築現場のBIM運用と量産型ロボ施工を両輪で実装している点に独自性があります。鹿島が土木自動化、清水がShimz Smart Site、竹中がデジタルプラットフォーム、大成がBIM教育、と各社が違う得意分野を持つなかで、大林は「建築BIMをそのまま施工・自動化に流し込む」流れを最も明確に体系化しているといえます。

業界への示唆 — 協力会社・サブコンが今すぐ確認すべきこと

ここまでをまとめると、大林組のDX戦略は次の3点に整理できます。

  1. BIMワンモデルへの完全移行を宣言済み:2024年度末を期限としてBIM生産基盤への完全移行を進めており、設計→施工→維持管理がワンモデルで一気通貫に動くことを前提に業務が組み直されつつあります。
  2. 4D施工管理支援システムが本格稼働:エスコンフィールドという大規模かつ難易度の高い現場で実証済み。今後の主要現場で標準装備化が進む見通しです。
  3. ロボット施工の量産機投入:耐火被覆ロボ2号機をはじめ、自律搬送AGV・3Dプリンタなどが「実証」から「実用」のフェーズへ移っています。

これは、協力会社や設備・サブコンにとって次のような実務影響を意味します。

  • BIM対応の有無が受注機会を左右する:大林組案件では、SBSに準拠したBIMモデルの提出・編集能力が求められる現場が増えるはずです。Smart BIM Standardが公開されている以上、「知らなかった」では済まされない段階に入りつつあります。設計フェーズでのBIM対応体制を、早期に整えておく必要があります。
  • 4D施工管理の情報連携要件を事前確認:エスコンフィールドの事例のように、クレーン稼働や鉄骨揚重などの実績データが4Dシステムへ連携される現場では、データ連携プロトコルや測位機器の規格をサブコン側でも把握しておくことが求められます。
  • ロボ施工との作業区分が変わる可能性:耐火被覆や資材搬送はロボの守備範囲が広がっており、関連職種の見積前提や作業フローが変わる場面が想定されます。

「大林組さんの現場ってBIM要件きつそうだから」と敬遠していると、気付いた時には主要現場のサプライヤーから外れている、という事態すら起こりうる局面です。BuildAppの連載「大林組のDX戦略」(第二回 / 第三回 / 第四回)でも繰り返し指摘されているように、BIMはもはや「設計部門のツール」ではなく「事業を動かす情報基盤」へ位置付けが変わっています。

大林組のDXは、エスコンフィールドという目に見える成果を伴って前に進んでいます。その射程は球場という特殊建築物にとどまらず、オフィス・物流・工場・住宅と幅広く広がっていくはずです。受注側のプレイヤーがいま備えるべきは、彼らの「ワンモデル一貫利用」と「Robotics Construction」を前提とした自社の業務体制の作り直しに他なりません。

参考・出典

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