建築AI 読了 約14分

鹿島がBIM・A4CSELで業界を変えた理由 — 取引先が知るべきDX戦略の全貌

スーパーゼネコン鹿島建設のDXを公開情報から読み解きます。A4CSELの4機種連携と社外展開、BIMLOGI、コンクリート品質AI、デジタルツインによるFM連携、グローバルBIM体制まで、土木と建築の両輪で進む鹿島の取り組みを競合比較とあわせて整理します。

#鹿島建設 #A4CSEL #ゼネコンDX
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スーパーゼネコン5社のなかでも、ICT・自動化施工の領域で「先行している会社」として名前が挙がるのが鹿島建設です。土木の自動化建機A4CSEL、建築のBIM協働、デジタルツイン、コンクリート品質AI、現場画像認識——投資領域は驚くほど広く、しかも個々の技術が単発ではなく相互につながっているのが特徴です。本稿では、鹿島が公開しているプレスリリース・技報・第三者取材記事をもとに、同社のDXを「土木の自動化」「建築BIM」「AI」「デジタルツイン」「研究開発体制」の5つの軸で読み解きます。公式パンフレットを翻訳するのではなく、外部視点で意義と射程を整理することを目的としています。

鹿島の業界ポジション — なぜ鹿島のDXは注目されるのか

鹿島建設は1840年創業、180年を超える歴史を持つ国内最大級のゼネコンです。売上規模では大林組・大成建設と並んでスーパーゼネコン上位を構成しますが、特徴的なのはダム・トンネルなど大型土木プロジェクトでの実績と、それらの現場で培われた自動化建機の技術蓄積です。建築・土木のどちらにも厚みがあるため、DX投資のテーマも自然と「現場の自動化」と「設計から運用までのデジタル一気通貫」の二本柱になっています。

スーパーゼネコン各社のDXの色合いを比べると、清水建設はロボット主導(Shimz Smart Site)、竹中工務店は設計補助・墨出しロボ、大林組はバランス型、大成建設はFM・運用統合に強み、というのが業界誌での一般的な整理です(CIW Construction「スーパーゼネコン5社の違い」)。そのなかで鹿島は「現場の工場化」、つまり施工そのものをデジタルで設計し、自動建機とロボットで実行する方向に強くベットしているのが特徴です。

DX推進体制 — 「デジタル推進室」と技術研究所の二人三脚

鹿島は2021年1月、社長直轄組織として「デジタル推進室」を新設しました。建設DX・事業DX・業務DXの3つの分野を担当し、技術研究所所長を経験した役員が研究開発とデジタルの両方を統括するという、業界でも珍しい兼務体制を敷いています(Japan Innovation Review「鹿島建設がDXで挑む」)。R&Dとデジタル戦略が同じ意思決定者の下に置かれることで、研究所の試作技術を現場に投入するまでのリードタイムが短くなります。

研究の本丸は調布の鹿島技術研究所(KaTRI)です。土木・建築・環境・地盤・材料といった伝統的な研究分野に加え、近年は施工自動化・ロボティクス・AI・建築デジタルツインといったテーマを横断する形で取り組みが進んでいます。海外拠点として2013年にシンガポールに開設された KaTRIS は、2023年に5つの先端ラボを備えた「The GEAR」に移転し、建物自体をテストベッドとして外部パートナーと協働する場へと進化しました(鹿島技術研究所 KaTRIS)。スタートアップとの協業も活発で、Plug and Play Japan のパートナーとして社外連携も継続しています(Plug and Play Japan)。

A4CSELの全貌 — 「無人化」ではなく「自律連携」の発想

鹿島のDXの代名詞といえばA4CSEL(クワッドアクセル)です。リモコンによる遠隔操作とは異なり、1人の指示で複数台の自動建機が自律的に連携する点が本質的な違いです。GPS・ジャイロ・レーザースキャナと制御PCを建機に搭載し、ダンプの運搬・荷下ろし、ブルドーザのまき出し・整形、振動ローラの締固めまでを途切れなく自動化します(鹿島「A4CSEL」技術紹介)。

システムは「施工マネジメントシステム」と「自律自動運転システム」の二層構造で、前者はさらに「施工計画」「施工管制」「重機管理」の3つのサブシステムに分かれます。つまり、現場全体の段取りをデジタルで設計し、建機個体を制御し、進捗を可視化するという、いわば建設現場のSCADAのような構成です。

成瀬ダムでの本実装

A4CSEL の代表案件は秋田県の成瀬ダム堤体打設工事です。国内最大の台形CSGダムで、最盛期には3機種10数台、累計23台規模の自動建機が連携稼働しました。1人のオペレーターがタブレットから複数建機にタスクを割り当て、CSG(セメント・砂礫材を混合した堤体材料)の打設を高い精度で進める運用が確立しています。

2024年12月:造成工事への本格適用

2024年12月、鹿島はA4CSEL を造成工事へ本格適用すると発表しました(鹿島プレスリリース 2024年12月)。ダムのような大型単一構造物ではなく、敷地造成というより一般的な工事に展開することで、適用領域が一気に広がります。「現場の工場化」というキーワードのもと、計画→施工→検測のサイクルをデジタル前提で組み直す試みです(総合資格navi 特集)。

2025年6月:4機種連携で盛土の一連作業を自動化

2025年6月には、バックホウとアーティキュレートダンプトラックを新たに自動化し、既存のブルドーザ・振動ローラと合わせて4機種連携での盛土自動化を発表しました(鹿島プレスリリース 2025年6月)。積込み→運搬→敷均し→転圧という盛土の一連作業を、機種をまたいで途切れなく自動で回すフェーズに入ったことになります。BUILT の取材でも、複数機種の協調制御は鹿島の中核的な差別化要素として位置づけられています(BUILT 2025年6月記事)。

社外展開:他社元請現場での試行

注目すべきは2025年2月の発表で、A4CSEL を他社の元請工事に適用する試行を開始した点です。日本国土開発、冨島建設、水谷建設の3社の現場で運用を始めています(鹿島プレスリリース 2025年2月建設ITブログ)。個社の囲い込み技術から業界インフラへと意図的に位置づけを変えており、自動化建機の標準プラットフォームを取りに行く動きと読めます。

建築BIM — 「フルBIM」と協働モデリングへ

鹿島の建築BIMには明確な原点があります。三菱地所が分譲予定だった「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」での施工ミスをきっかけに、設計図と現物の不整合をデジタル上で潰しきる「スーパーフロントローディング」を目標に据えました(キャパ「鹿島建設におけるRevit」)。着工時点でデジタル上は全工事が完了している状態を目指す、というかなり野心的な定義です。

設計・施工・FM のフルBIM

実装面では2020年5月、東京都内の大規模建築工事で企画・設計・施工・運用の全フェーズをBIMでつなぐ取り組みを開始したと発表しています(鹿島プレスリリース 2020年5月)。設計BIMをそのまま施工BIMに引き継ぎ、竣工後はグループ会社の鹿島建物総合管理が運用する FM プラットフォームに接続するという、いわゆるBIM-FMの本格運用です。建設通信新聞の2024年BIM特集でも、鹿島建物総合管理の BIM-FM 実績は8件から年内に10件へ拡大する見通しと報じられています(建設通信新聞「BIM2024⑦」)。

協力会社50社とのRevit協働

施工BIMで興味深いのは、西日本プロダクションセンターを中心とした協力会社50社との協働モデリング体制です。Revit を共通ハブにしつつ、鉄骨は Tekla、設備は Rebro、確認には Navisworks という形で、専門工事会社が自社の得意ツールで作ったモデルをストレスなく統合する仕組みを整えました(建設ITブログ サクセスストーリー)。BIM の「協働」をスローガンではなく実装に落とした事例として注目されています。

グローバルBIM

2017年には子会社「グローバルBIM」を設立しました。Revit と ARCHICAD の両方を扱えるBIMサービスプロバイダで、社内向けのモデリング支援だけでなく社外案件にも対応します。ゼネコンが自社グループ内にBIM専業会社を持つ構造そのものが、鹿島のBIM投資の本気度を示しています。

BIMLOGI — 部材ごとに進捗を追う物流連携

建築工事で大変なのは設計や施工計画よりも、むしろ膨大な部材の発注・搬入・取付の段取りです。鹿島は2021年8月、BIMモデルと連携して製造・運搬・施工・検査の各フェーズの進捗を管理する「BIMLOGI」を発表しました(鹿島プレスリリース 2021年8月)。東京の大型現場で2020年4月から実証を開始し、約3,000本の鉄骨、2,000ユニットのカーテンウォール、6万点の電気・空調・衛生設備機器、900点の建築部材に適用して、手戻りや遊休時間の削減効果を確認しています。

「部材1点1点にBIMモデル上のIDを紐づけ、QRコードや RFID でステータスを更新する」という、考え方自体は世界中で議論されていたものを、現実の大型現場で数万点規模で回しきった点に価値があります。デジタルツイン基盤「鹿島ミラードコンストラクション」とも連携し、部材ごとの施工進捗率を3Dモデル上で可視化できるようにしています(BUILT 2021年6月記事)。

AI活用 — 画像認識・コンクリート品質・生成AI

鹿島のAI活用は派手なデモではなく、現場の地道な作業に張り付いているのが特徴です。

コンクリート品質評価アプリ

2022年9月、コンクリート構造物の表層品質をAIが評価するアプリを発表しました(鹿島プレスリリース 2022年9月)。タブレットで表層の写真を撮影し、打重ね線・色つや・表面気泡・沈みひび割れ・ノロ漏れ・砂すじの6項目をAIが0.1点刻みで評価します。これは独立アプリではなく、生コンクリートの受入れから打継面処理、表層品質までを一気通貫で管理する「コンクリート・アイ」というシステムの一部として位置づけられています。

画像AIによる技能者・作業時間の把握

2024年2月発表のシステムは、現場に設置した固定カメラの映像をAIで解析し、技能者の人数と作業時間を1分刻みで自動把握します(鹿島プレスリリース 2024年2月)。歩掛り(標準作業量)を自動算出できるため、これまで現場監督が紙とストップウォッチでやっていた工程分析が、データドリブンで回り始めます。

ドローン×AIによる資機材管理

2023年7月には、ドローンの空撮映像をAIで解析し、3Dの現場モデル上に資機材の位置を表示するシステムを共同開発し、作業時間を約75%削減したと発表しています(鹿島プレスリリース 2023年7月)。広大なヤードでの資機材棚卸しというのは典型的な「人手×時間」業務で、ここをAIで圧縮した効果が分かりやすい事例です。

生成AI「Kajima ChatAI」

生成AIの分野では、当初は社内利用を制限した時期もありましたが(日経クロステック 2023年5月)、その後イントラネット内に独自の対話AI「Kajima ChatAI」を構築し、約2万人規模で利用できる体制を整えました(日経クロステック 2023年9月)。情報収集、議事録、メール作成、翻訳、プログラミングまで用途は幅広く、認証・履歴ログを備えた業務利用前提の設計です。

ロボティクス — 自動鉄筋結束・自律移動・現場溶接

A4CSEL が土木側のロボティクスだとすれば、建築側では協働ロボットと自律移動システムが軸になります。

鉄筋結束については、建ロボテックの「鉄筋結束トモロボ」を現場で活用しています。配筋上を自動でレール走行し、鉄筋の交点をセンサーで感知して結束機が結束します。200mmピッチで結束機2台使用時、1カ所当たり2.7秒という速度で、トモロボ自体は第11回ロボット大賞で国土交通大臣賞を受賞しています(BUILT 2024年9月記事アクティオ取材記事)。鹿島の場合、自社開発に固執せず、外部の優れた協働ロボットを積極的に導入する姿勢が際立ちます(鹿島「OS1現場のスマート生産」)。

自律移動の領域では、2021年3月に建築現場用ロボット向けのAI自律移動システムを発表しています(鹿島プレスリリース 2021年3月)。さらに2024年12月には、竹中工務店などとBIMデータから生成した地図で自律移動する資機材自動搬送ロボットを共同開発したと報じられています(BUILT 2024年12月記事)。競合との共同開発に踏み込んでいる点は、業界全体で標準を作りに行く意図の表れと読めます。

溶接では2024年11月、柱1本を全自動で溶接できる新型のマニピュレータ型現場溶接ロボットの実導入を発表しました(鹿島プレスリリース 2024年11月)。熟練工と同等以上の品質を、再現性のあるロボット作業で確保するというのが新型機の売りです。

デジタルツインとFM — 「鹿島ミラードコンストラクション」

鹿島のデジタルツイン基盤は「鹿島ミラードコンストラクション」と呼ばれます。2021年1月に発表され、現実の現場をリアルタイムで仮想空間に再現する3次元可視化基盤として位置づけられています(鹿島プレスリリース 2021年1月)。BIMLOGI で集まる部材進捗、画像AIで把握する作業実績、A4CSEL の建機稼働データといった、現場で発生するあらゆる情報をモデルに紐づけて可視化する設計です。

竣工後は、既開発の「鹿島スマートBM」と連携し、設備の最適調整による省エネ化、機器の長寿命化、故障予測などにつなげます。建物のライフサイクルコストのうち、運用・維持管理が7〜8割を占めることを考えると、ここをデジタル化できることの経済価値は大きいといえます。鹿島建物総合管理がBIM-FMで担う役割は、まさにこの「竣工以降」のデジタル価値創出です。

競合との比較ポジショニング

スーパーゼネコン4社(清水・大林・竹中・大成)と比べたときの鹿島の特徴を、公開情報の範囲で整理します。

観点鹿島の強み競合の代表的取り組み
土木自動化A4CSEL(4機種連携、社外展開)大林組のICT施工、大成建設の自動化建機
建築ロボットトモロボ活用、自律移動、現場溶接ロボ清水建設のRobo-Welder/Carrier/Buddy、竹中の墨出しロボSUMIDAS
BIM協働Revit中心、協力会社50社の協働モデル竹中のStreamBIMによる現場展開
物流・進捗管理BIMLOGIで万点単位の部材管理各社個別開発(標準は未確立)
デジタルツイン基盤鹿島ミラードコンストラクション大成のLifeCycleOS、清水の独自基盤
生成AIKajima ChatAIを約2万人規模で展開各社で内製・SaaS導入が進行

ざっくり言えば、清水は建築ロボット、竹中は設計・現場のUX、大林・大成はバランス型と運用、というなかで、鹿島は土木自動化と建築BIMの両輪で「現場の工場化」を最も体系的に進めている——というのが筆者の見立てです。特にA4CSELの社外展開はゼネコン業界では珍しい意思決定で、技術提供型ビジネスへの道筋を明確に作りに来ています。

業界への示唆 — 中堅・地場が学べる3つのポイント

最後に、規模で太刀打ちできない中堅・地場ゼネコンが鹿島の取り組みから読み取れる示唆を3つ挙げておきます。

第一に、自動化は「単機」ではなく「連携」で価値が出るということ。A4CSELが4機種連携になった瞬間に盛土の一連作業がデジタルで回るようになったのは象徴的です。導入時には自動建機を単体で評価しがちですが、最終的にはオーケストレーション層の有無で生産性が決まります。

第二に、BIMは設計室の閉じた仕事ではなく協力会社との協働基盤であること。鹿島が50社規模のRevit協働を実現できたのは、ハブとなるソフトを揃え、各社の得意ツールを許容する寛容な設計があったからです。中堅でも、設備会社・鉄骨会社との連携モデルを地に足のついた形で作れば、同じ方向に進めます。

第三に、生成AI・画像AI・コンクリート品質AIといったAIは、いきなり華々しい用途に投じるのではなく、現場の地道な業務に張り付けること。鹿島の事例はどれも「監督が紙でやっていた仕事」「資機材を目視で数えていた仕事」を置き換えるところから始まっています。AI活用で迷ったら、自社の業務量分析シートを開き、もっとも時間がかかっている工程から潰すのが鉄則です。

ゼネコンDXは「巨額の研究開発投資があって初めて成り立つもの」と見られがちですが、鹿島が公開している事例を読み解いていくと、根底にあるのは投資額そのものよりも、現場を工場として捉える発想と、研究所と現場と協力会社をつなぐ仕組みであることがわかります。同じ発想は、規模を問わず移植可能です。

参考・出典

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